読み物語り - 「芙蓉千里」/須賀しのぶ
久しぶりにシリーズ物の大河ロマンを読みました。
まさに一気読みです。
「芙蓉千里」ー 須賀しのぶ
辻芸人の娘として1人で生きてきたフミが、「自ら」女郎になるために海を渡り、明治40年、中国(大陸)の哈爾濱(ハルビン)へ渡るところから物語が始まります。
一緒に海を渡った、「売られてきた」タエと哈爾濱内の魔窟・傅家とんの置屋「酔芙蓉」で雑用の赤前垂れとして、女郎を目指して奮闘します。
置屋の雑用係として日々過ごすフミは、哈爾濱で先輩女郎からそれぞれの女の生き様を目の当たりにし、また日々の生活から広い世界を学び、そして初恋の相手・山村健一郎と出会います。
辻芸人として見よう見まねで舞を舞っていたフミは、次第に本格的に舞の才能を開花させ、女郎ではなく芸妓の道に進むことになります。
フミの舞の才能に心底惚れ込んだ、ワケあり日本人実業家・黒谷に見初められて一度は落籍されます。
折しも明治、大正期の大陸の情勢はロシア革命以降大混乱。
とある事がきっかけでフミはいつのまにか馬賊の頭となった初恋の相手、名前を楊建明と変えた山村健一郎と再会します。
ある事件がきっかけで、穏やかで、芸妓としては百点満点の生活を提供してくれる「旦那」である黒谷の元から姿を消し、芸妓であることを捨て、初恋の相手を追いかける決意をします。
そして再会を果たした楊建明率いる馬賊の一員として、モンゴルの独立運動に加わっていく...
ざっとあらすじ的にはこんな感じです。
歴史大好きですが、不得手な時代はありまして、近現代史になってくるとちょっと苦手です。笑
その為、「あれ、この人はどっち側の人だっけ??」と、状況を途中整理しながら読み進めました。
でも当時の哈爾寶の「魔都」のような感じ、あまり知らなかった大国に囲まれながらのモンゴルの独立への動きなど本当にドキドキしました。
哈爾寶といえば自分の中では中学生の時に読んだ、なかにし礼さんの「赤い月」の印象がとても強いです。あの時も哈爾寶という不思議な町の響きに夢中になりました。
東洋と西洋の交わる場所といえば、トルコのイスタンブールがすぐに挙げられると思いますが、哈爾寶も西洋(ロシア)と東洋(中国、日本)が交わっているのではないでしょうか(実際に行ったことがないので想像の範囲ですが)
う〜ん、やっぱり一度は行ってみたい…近いようで、ちょっと遠いかな…
物語のスタートは「女郎屋」のため、本来であれば目を背けたくなるような話もあるに違いないのに、この話の中ではその現実を匂わせつつも、決定的には描かれていないので、ちょっとそういう話は…と思う人も大丈夫です。
物語を通して数多く印象的な女性達が現れます。
「大陸一」の女郎になるはずだったのに、「大陸一」の舞姫となり、遂には馬賊の一員となるフミ
女郎になるのを酷く怖がったにもかかわらず、置かれた場所で自分自身の大輪の花を咲かせたタエ
己の信じた道を突き進んだ先輩女郎達
革命から逃れ、異国の地で地に足をつけたロシア人バレリーナ
自分の方法で、命をかけて我が子を守った母親
どの女性もその時その時、自分が正しいを思った道を突き進んでいきます。その姿が非常に強く美しく、魅力的でした。
男性の登場人物も皆かっこいいんですよ…
何処の国にも属さない、風のように大陸を駆け巡った楊建明
孤独から自分を救ってくれた義兄弟の建明に従い、大事なものを守り続けた呉炎林
訳アリの過去からフミを通じ、生まれ変わっていく黒谷貴文
4巻目からの呉炎林、ほんと好きでした笑
「馬賊」っていうと、どうしても「はいからさんが通る」の鬼島軍曹を思い出してしまいます。笑
番外編の「鷺草物語」では泣いて泣いて、ついに心を開けた環ちゃんとその後はどうなったの!?と今でも気になります。
「芙蓉千里」の中でも馬賊のメンバーは、(特に呉炎林は代表格のように感じましたが)基本的にはぶっきらぼうで、心を開いていない相手にはとても冷たい印象です。(飽くまで物語の中での設定ですが)
でも心を開いていくにつれて口数が多くなり、優しい一面を表し始めていく過程が個人的にはたまらないです…
「はいからさんが通る」で鬼島軍曹にはまった方は、きっと「芙蓉千里」にもきっとハマるはず…
昨年末に読んだ「神の棘」から、須賀しのぶさんの作品にすっかりハマってしまいました。
特に第二次世界大戦中の欧州が関わってくる話は、よく調べられていて、非常に重厚感ある作品だと思います。
次は「革命前夜」を読もうかな…